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離婚後の共同親権とは?2026年施行制度の概要と子どもの権利から見た課題

離婚後の共同親権をめぐる議論 子どもの視点から見える課題と期待

子連れ離婚のイメージ
子連れ離婚のイメージ

2026年4月、離婚後の共同親権制度が日本で初めて導入される。明治時代以来つづいてきた「離婚すれば親権はどちらか一方のみが持つ」という仕組みが、ようやく見直される形だ。
この法改正の目的は、離婚しても子どもが父母の双方と関わり続けられるようにすることにある。しかし、制度が現実にどのように運用されるのか、そして本当に子どもの権利を守るものになるのかは、まだ見えない部分が多い。

子どもにとって「親」とは誰か

離婚を経験した子どもにとって、親の離別は「家族の分断」として深く記憶に残る。
単独親権制度では、親権を持たない側の親が子どもの医療や教育に関われない場面が多く、結果として会う機会さえ減ってしまう。
「もうお父さん(お母さん)に会えないの?」という不安を抱える子どもも少なくない。

共同親権が選べるようになれば、離れて暮らす親も子どもの成長に法的責任を持ち続けることができる。
これは「両親から愛されている」という実感を保つうえで、心理的な安定につながる可能性がある。

賛成派の見方 「親の関係より子どもの関係を守る」

賛成派は、この制度を「子どもが二人の親から愛情と支援を受け続ける権利を保障するもの」として評価している。
特に父親側の当事者からは「離婚後も子どもの教育に関わりたい」「一方的に排除される現行制度は不公平だ」という声が多い。
海外ではすでに共同親権が一般的であり、日本の制度は時代に取り残されているという指摘もある。

また、養育費の未払い問題の解消にもつながるという見方がある。
親権を共有することで、離れて暮らす親が「責任を持つ主体」としての自覚を持ちやすくなるという理屈だ。
子どもの経済的基盤を安定させる狙いも、この法改正の背景にある。

反対派の懸念 「暴力のある家庭では危険」

一方で、反対派が最も強く警鐘を鳴らすのは、DVや虐待がある家庭でのリスクだ。
離婚後も加害的な親が親権を持つと、もう一方の親や子どもが逃げられなくなる。
親権を理由に進学や医療などの同意を拒否され、子どもの選択が制限される恐れがある。

「共同親権が子どものため」とは限らない。
暴力や支配関係があった家庭では、親の関与が子どもにとって再びストレス源になることもある。
制度が形だけ進んでも、現場での保護や支援体制が追いつかなければ、子どもの権利が守られないという懸念は根強い。

「子の最善の利益」という原則のむずかしさ

改正法の中心にあるのは「子の最善の利益」という考え方だ。
しかし、何が「最善」なのかは一律には決められない。
親同士の対立が激しい場合や、価値観が大きく異なる場合、子どもがその板挟みになることもある。

たとえば、進学先の選択や宗教教育の方針など、家庭内でも意見が割れやすい問題では、合意が得られないまま時間だけが過ぎていく可能性がある。
家庭裁判所が介入しても、最終的には「どちらの意見が子の利益に合致するか」という曖昧な判断を下すしかない。

子どもの声をどう反映させるか

国連の子どもの権利条約では、子どもが自分に関わる問題について意見を述べる権利が認められている。
しかし、日本では家庭裁判所で子どもの意見を丁寧に聴き取る仕組みがまだ整っていない。
年齢によっては発言しづらく、大人の意向に流されることもある。

共同親権が導入されるなら、「親の合意」よりも「子どもの声」を尊重する制度的保障が欠かせない。
たとえば、弁護士や心理士が子どもの代弁者として参加できるようにするなど、手続的な工夫が必要だ。

一方で、協議が可能なカップルもいる

一方で、親権の協議を円滑に行える夫婦は、関係が完全に断絶しているとは限らない。
反対に、関係が深刻に破綻している場合には、家庭裁判所による審理が必要となる。
そうしたケースでは、紛争の長期化が子どもの生活に影響を与えるため、手続の迅速性が重要となる。
家庭裁判所は子どもの利益を最優先に判断するが、審理が長引けば子どもの生活環境が不安定になる。
したがって、法制度の整備とともに、調停・審判の迅速化や一時的な監護体制の確保など、実務面での改善も求められている。

共同であることに問題があるケースは、個別に切り分けて守る

共同親権が子どもの安定につながるケースは少なくない。一方で、実務では「継続性の原則」が強く、離婚前から主に子どもを見ていた親の監護がそのまま維持されやすい現実がある。ここに、ネグレクトや心理的虐待が紛れ込むと、子どもの安全が制度の陰で見えにくくなる。

私がよく聞くのは、母が育児放棄に近い状態であっても、形式上は日常の世話を継続していたために父が親権を取ることが難しいという事例だ。日本の家裁は子どもの最善の利益を最優先しつつも、生活の連続性や現在の監護環境を重視する傾向がある。明白な問題が認められない限り、現状維持に傾くことが多い。

だからこそ、共同という形式を先に置くのではなく、子どもが置かれている個別の状況から出発するべきだ。ネグレクトが疑われる場合は、証拠の収集と保護の経路づくりが第一になる。学校や保育所の記録、医療機関の所見、児童相談所の対応履歴は重要な手がかりになるし、家裁では監護者指定や親権停止・喪失の申立ても含めて、段階的に子どもの安全を確保していく。

統計面でも、虐待対応の相談件数は増加しており、加害者は実母・実父が大半を占める。ネグレクトは決して例外的な現象ではない。つまり、共同という選択肢が広がるほど、共同が不適切な個別事案を正確にふるい分ける仕組みが同時に必要になる。

経済的支援と養育費の確保

今回の改正では「法定養育費制度」も新設される。
離婚時に取り決めがなくても、子を育てる親が相手に月2万円の暫定的養育費を請求できる仕組みだ。
これは親の義務であると同時に、子どもの権利でもある。

子どもが経済的に不安定な生活に置かれないよう、国が一定の基準を設けた点は評価できる。
ただし、実際に支払いが滞った場合の強制力や、支給額の妥当性については今後の検証が必要になる。

自治体・学校・地域社会に求められる支援

家庭の問題は、最終的に地域社会が支える仕組みの中でこそ安定する。
共同親権のもとで親同士の連絡が難しい場合、学校や児童相談所が情報共有の役割を果たすことも増えるだろう。
また、子どもが安心して相談できる窓口を地域に整備することが、制度の実効性を高める鍵となる。

親の関係が悪化しても、子どもが孤立しない仕組みをどう作るか。
自治体レベルの対応力が問われている。

結論:子どもの幸福を中心に置く法制度へ

共同親権の導入は、親の権利を拡大するためのものではなく、子どもの幸福を守るための制度でなければならない。
親が二人いるという法的形式よりも、子どもが「安心して生きられる環境」が整っているかどうかが本質だ。

制度が施行されるまでの1年半の間に、社会全体で子どもの権利と安全をどう守るかを議論する必要がある。
本当に問われているのは、「親がどうあるべきか」ではなく、「子どもがどう生きたいか」なのだ。

関連リンク
法務省:民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について
藪原太郎公式サイト

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