多死社会に向かう武蔵野で、見えているのに語られない「火葬インフラ」の現実

前回の記事では、東京の火葬場が抱える構造的な問題について触れた。
23区では火葬料金の高騰が続き、市部では施設そのものが足りない。
葬儀や火葬という、生きている間はあまり意識しないテーマが、気が付けば暮らしの足元に重くのしかかりつつある。
今回の記事では、その背景にある人口構造の変化に目を向けたい。
火葬場の逼迫は突然の出来事ではなく、静かに積み重なってきた人口動態の結果として現れている。
今の東京がどこへ向かっているのかを知るには、まず足元の数字に向き合う必要がある。
武蔵野の人口を丁寧に分解してみる
武蔵野市の住民基本台帳を年代別に見ると、いま何が起きているのかが驚くほどはっきりと読み取れる。
75歳以上 19,868人
65〜74歳 14,091人
55〜64歳 19,718人
人口約15万人のうち、75歳以上がすでに約2万人を占める。
街を歩いていても、高齢の方が増えたという実感を持つことはあるが、数字で見るとその存在感はさらに際立つ。
令和2年の統計では、年間の死亡者数は約1,100〜1,200人。
これは単なる結果ではなく、75歳以上の人口規模とほぼ比例している。
こうした現象は武蔵野市に限ったものではなく、東京全体、多摩全体でも同じ傾向が見られる。
つまり現在の状況は、多死社会の入口ではなく、すでにその中に入り始めている段階にある。
これから先の10年、20年に何が起きるのか
ここから先は、さらに大きな波が来る。
まず、団塊世代が85歳以上へと突入する。
85歳を超えると死亡率は急激に上がり、年間の死亡者数が一段と増える傾向がある。
これは避けられない人口の動きであり、どの自治体もこの波を受けることになる。
さらにもう一つ大きいのが、55〜64歳に位置する団塊ジュニアの存在だ。
約2万人いるこの層が20年後には75歳以上に加わることで、高齢者人口は大きく膨らむ。
推計では、武蔵野市の75歳以上人口は今後30〜50%増える可能性が高く、それに連動して年間の死亡者数も1,500〜1,700人規模に増えると読み取れる。
これは武蔵野市の将来人口推計とも整合しており、増加が一時的ではなく長期にわたることを示している。
これは単純な増減ではなく、社会そのものの構造が変わることを意味する。
高齢者が増え、支え手が減るという状況の中で、亡くなる人の数だけが急増する。
医療、介護、生活、そして最後の火葬の現場まで、あらゆる分野に影響が及ぶ。
火葬場の逼迫は「予約が取りにくくなる」だけではない
都内の火葬能力は限界に近づきつつある。
すでに火葬待ちは3〜5日が標準となり、冬場は10日以上待つこともある。
火葬場は24時間動かせば済むという施設ではなく、周辺環境や労働条件の制約があるため、供給量の拡大には限界がある。
武蔵野市を含む東側の市部では、多磨葬祭場に利用が集中しており、この状況が続けば、火葬待ちが2桁の日数になることが通常化する可能性もある。
火葬を待つ期間が延びると、遺族の肉体的・精神的負担が増えるだけでなく、感染症対策や安置スペースの問題など、別の課題も浮上する。
災害時や流行病の拡大期には、さらに深刻な影響が出ることが予想される。
いまから考えておくことに意味がある
火葬場は迷惑施設として扱われがちで、新設や拡張は容易ではない。
行政が強引に進めれば反発が生まれ、対話を欠いては地域の不信を招く。
しかし、必要な施設が整わなければ、最終的に困るのは地域に暮らす市民である。
施設の更新や再配置、複数市による共同運営、災害時の暫定設備の活用、料金や待機日数の情報公開、丁寧な説明と合意形成。
一つひとつは地味だが、欠かすことのできない取り組みだ。
人口構造の変化は、数年で解決できるものではない。
だからこそ、数年後ではなく、今から準備を始める必要がある。
最後に
火葬場の問題は、一つの市だけが抱えるものではなく、東京全体が向き合わなければならない課題でもある。
地域の枠を越えて、よりよい形を探す取り組みをこれからも続けていきたい。
関連リンク
武蔵野市人口統計
武蔵野市の将来人口推計

