
泉大津市立図書館「シープラ」を視察|商業施設リノベとロボットが支える新しい公共空間
商業施設を改修して誕生した泉大津市立図書館「シープラ」は、図書館の新しい形を示す先進事例だった。
視察では、空間の工夫だけでなく、運営体制・学校連携・ビジネス支援・評価の仕組みに至るまで、図書館を「まちの拠点」として再定義する試みが随所に見えた。
商業施設内に開かれた新しい図書館
シープラは、駅前商業施設「アルザタウン泉大津」のワンフロアをリノベーションして開館した。
延床約3500㎡、開架約15万冊。開館後は旧図書館の約7倍の来館者を集めており、「買い物のついでに立ち寄れる図書館」という利便性が利用者層を大きく広げている。
夕方には近隣の高校生が放課後の居場所として利用し、閉館の20時まで滞在する姿も多いという。
「家と学校の間に図書館がある」ことで、都市型の居場所づくりが自然に実現していた。
多様な人材とレファレンスの仕組み
運営体制の特徴は、任期付職員や会計年度任用職員を含め、多様な経歴を持つ人材で構成されている点にある。
新聞記者、介護職、企業経験者などが集まり、専門資格を前提としない採用を行っている。
図書館だけを知る人よりも、外の世界を知る人が支援に関わることが、利用者にとっての強みになるという考え方だ。
レファレンスは専任カウンターを設けず、館内どこにいても対応できる仕組み。メールや電話でも受け付け、必要に応じて職員間で引き継ぐ。
第3水曜日の休館日には全員で研修を行い、職員自身が講師を務める形で学びを循環させている。
学校図書館との一体運用
公共図書館と学校図書館のシステムを共通化し、子どもが1枚のカードで両方を使えるようにしている。
学校側から授業予定をメールやFAXで送ってもらい、必要な本を図書館が揃えて届け、授業後に回収する仕組み。
学校司書との合同研修も定期的に行い、公共と学校の垣根を越えた支援体制を整えている。
こうした運用により、子どもたちが「図書館は身近な学びのパートナー」と感じる環境が生まれていた。
ビジネス支援と「子ども商店」
シープラのもう一つの柱がビジネス支援だ。
日本政策金融公庫と連携し、月に一度、創業や経営相談の窓口を開設している。
図書館は相談者に関連資料を即座に提供し、知識面から事業支援を行う。
さらに注目すべきは、ソニーが開発したボードゲームを活用した経営シミュレーション「子ども商店」だ。
子どもたちは模擬的な経営体験を通じて、仕入れや広告費、人件費といった経済の仕組みを学ぶ。
年に一度は実際に地域と連携した「リアル子ども商店」を開催し、体験を社会につなげている。
教育と経済が交差する場所として、図書館の新しい可能性が見えた。
ロボット案内の実装
館内では、検索端末と連携した案内ロボットが実際に稼働していた。
利用者が端末で本を検索すると、バーコード付きの案内票が出力される。
そのバーコードをロボットに読み込ませると、目的の棚まで自動で案内が始まる。
開館時点から実装されており、職員の業務効率化だけでなく、利用者の体験価値向上にも寄与している。
子どもや高齢者でも直感的に使える仕組みで、図書館のデジタル化を象徴する事例となっていた。
評価のあり方と図書館の存在意義
貸出冊数や来館者数といった「量的評価」ではなく、個人の行動変化を物語として記録する「質的評価」を導入している。
たとえば、不登校だった中学生がシープラに通うようになり、経営ゲームをきっかけに将来の目標を見つけたという実例が語られていた。
数字では捉えられない変化をストーリーとして残す試みは、図書館が「人の成長を支える場所」であるという理念を体現している。
市民の2割しか利用していない現状をどう広げるか。
その問いに対する答えを、シープラは日々のストーリーから探している。
まとめ:居場所と公共空間の未来
視察を通じて感じたのは、「シープラ」が単なる図書館ではなく、地域の多様な人が安心して関われる“公共の実験場”だということだ。
香りで識別するバリアフリートイレや、生理用品の無料提供など、細やかな配慮も印象的だった。
誰にとっても居心地がよく、学びや対話、創造が交わる場所。
そこには、静寂を守る図書館から、社会を包み込む図書館への確かな進化があった。
武蔵野市でも、公共施設を再構築する際に、この「開かれた図書館像」から学ぶことは多い。

