
生駒市に学ぶ「部活動の地域移行」
生駒市スポーツ振興課を視察。テーマは「学校・地域団体と連携した新たな地域クラブの推進」。机上論ではなく、制度・人・施設・運営の実務に踏み込んだ現場の知見。結論は明快。主語は子ども、推進の心臓は事業化。ここを外すと前に進まない。
生駒市の土台――受け皿を長年育ててきた強み
体育協会(一般社団法人)、総合型地域スポーツクラブ、指定管理者。生駒市は長年の協働で、行政の外に自律した受け皿がそろっている。役所内事務局から法人化、指定管理、地域クラブ支援へと役割を段階的に移してきた。移行の号令に対して「誰に頼むか」が明確。万能解ではないが、再現可能な設計が多い。
基本原則――子ども主語/制度のための制度にしない
教員の働き方改革は副次効果。目的は子どもが好きなスポーツを持続できる環境の確保。少子化で単独校が組めない現実に、地域の構造で応える。勝敗や伝統の維持だけに引っ張られない。まず続けられることを守る。
事業化――善意では回らない、業務に落とし込む
受け皿に仕事を委託し、運営に必要な一般管理費(事務経費)を明記する。会場調整、保険、徴収・返金、広報、事故対応、苦情窓口は誰かが担う。担うなら対価を設定する。複数年の契約でベース費を固定化し、年度ごとの綱引きを減らす。善意に依存しない運営が持続性を生む。
体制設計――二課並走とワンストップ
教育部局(学校側)とスポーツ所管(地域側)の二課並走を常態化する。説明会、専門部会、現場調整は毎回同席で進める。教育長を座長とする推進協議会を置き、研修、情報発信、指導者登録・認定、ハラスメント対策、苦情・通報対応までをワンストップ化する。肩書きで固めず、現場を動かす人材を中核に据える。
学校施設――ルール更新を避けない
ボトルネックは学校開放。平日夜の活用、抽選や優先度の見直し、有料化を含むルール更新が要る。既存団体との調整は不可避。パブリックコメントでは賛否が割れる前提で、公平性(使いたい人が使える)を軸に丁寧に説明する。施設は地域スポーツの心臓。ここが動かなければ全体が止まる。
統廃合と拠点――自力通学できる距離で設計
単独校チームが維持できない競技が増える。拠点校またはエリア拠点を定め、自力通学できる距離を原則に運営する。強化志向はクラブチーム等の別レーンに任せ、地域クラブは続ける場と位置づける。役割分担を明確にし、保護者の期待値を揃える。
大会運営――学校外へ出る事務はICTで受け止める
地域クラブの参入で、申込、決済、組合せ、審判割当、会計、苦情処理が学校外へ移る。人海戦術に戻せば教員の負担が復活する。ICTと外部委託を前提に設計し、例外対応と安全管理に人の力を集中させる。
人材と安全――登録・講習・誓約・排除を制度化
指導者・サポーターは登録制とする。講習受講、ハラスメント防止の誓約、違反時の登録抹消までを制度化する。保険は移動を含む包括加入を基本にし、救護体制を標準装備する。移行初期は学校の協力が不可欠。教員の地域参画(副業・兼業)の扱いも整える。
費用と頻度――数より人にやさしい設計を先に置く
費用は壁にしない。頻度は無理をさせない。家庭の負担感を最小に抑える。必要な減免と支援をあらかじめ用意する。学業と安全を最優先に、まず休日を中心に無理のない頻度で始める。平日の拡張は、追加の支え(公的・地域・ボランティア・民間)が整ってから段階的に進める。費用の使途は透明に示し、続けられるための仕組みであることを明確にする。
進め方は一つではない――選択肢と判断材料
目的の配列を先に決める(子ども継続、教員負担軽減、競技力の優先順位)。財源の枠線を共有する(一般財源、協賛・ふるさと納税、ボランティア支援の組み合わせ)。通学距離の基準を明文化する。そのうえで進め方は段階を選ぶ。休日から始める漸進ルート、休日と一部平日の標準ルート、効果重視の加速ルート。各ルートの長所短所を公開で比較し、地域の実情に合わせて決める。
可視化の指標――前に進んでいるかを確認する
- 週あたりの活動分数(安全と学業の両立を確認)
- クラブの平均人数(統合の効果を確認)
- 事故・ハラスメント件数と対応の速さ
- 学校開放の稼働率・抽選倍率(公平性の検証)
- 費用の透明性に関する満足度
- 保護者・教員・子どもの声(年2回の簡易サーベイ)
指標は評価のためだけに置かない。改善のために使う。
武蔵野での受け止め
生駒市の強みは、長年かけて受け皿を育て、仕事として委ねる設計を作ってきた点にある。武蔵野が同じ速度で走る必要はない。ただし、子ども主語と事業化だけは外さない。学校と地域を対立させず、並走させる。費用は壁にしない。頻度は無理をさせない。小さく始めて、着実に広げる。前に進む。
関連リンク
生駒市役所
第二期生駒市スポーツ推進計画

