ホーム武蔵野市議会行政視察視察報告 寝屋川市「青少年の居場所スマイル」|行政がつくる第3の居場所と若者支援のかたち

視察報告 寝屋川市「青少年の居場所スマイル」|行政がつくる第3の居場所と若者支援のかたち

青少年の居場所 スマイルへ 〜ようこそ〜
青少年の居場所 スマイルへ 〜ようこそ〜

家庭でも学校でもない「第3の居場所」――寝屋川市の青少年支援拠点「スマイル」に学ぶ

文教委員会の行政視察で大阪府寝屋川市の「青少年の居場所スマイルの取組について」を訪れた。市の教育委員会社会教育推進室が所管し、市直営で運営している点が大きな特徴だ。対象は中学生から30歳まで。家庭や学校では得にくい居場所を、市が責任をもって提供している。

設立の背景

寝屋川市では平成22年ごろから、ひきこもりや不登校などの青少年課題が顕在化していた。家庭で孤立する子どもや若者が増え、SNS上でしか人と関われない現実に危機感を持った市は、「家庭にも学校にも居場所のない子どもに、安心して過ごせる場を」と構想を立ち上げた。

背景には、過去に市内で児童虐待や少年事件が相次いだという現実もある。そうした痛みの記憶をもとに、市は予防と再接続の両立を掲げ、平成24年に「青少年の居場所スマイル」を開設した。事業開始時から教育委員会の枠内で実施されており、福祉と教育を横断する取り組みとして注目されてきた。

施設の発展と多機能化

開設当初は「交流スペース(MAIN)」と「自習スペース(STUDY)」の二部屋からスタートした。畳の上でくつろげる空間にテレビゲームや漫画が置かれ、隣の部屋では静かに勉強ができる。利用者が「したいこと」を自分で選べるよう、緩やかなゾーニングが工夫されている。

その後、平成25年には青少年の声を受け「活動スペース(ACTIVITY)」を追加。ダンスや体を動かす活動ができるよう広めの部屋が整備された。平成28年にはさらに「畳部屋(TATAMI)」「防音スタジオ(STUDIO)」「休憩室(REST)」を設置。ギターやドラムを備えたスタジオでは、放課後にバンド練習をする中高生の姿も見られる。多様な空間が生まれたことで、若者が自分の過ごし方を主体的に選べる場所となった。

運営体制とスタッフの関わり

スマイルの運営は市職員による直営体制で行われている。教員免許や子育て経験を持つコーディネーター1名と、大学生スタッフ3名を中心に運営。平日は15時から20時、土日祝日は12時から20時まで開室している。利用料は無料で、出入りも自由。
設備面では、現時点でWi-Fi環境は整備されていないが、学習支援や情報検索などの面から整備を望む声も出ている。ただし、予算や運用上の課題もあり、現状では導入予定は立っていない。

スタッフの関わり方は「寄り添うこと」に重点が置かれている。来館者に何かを求めるのではなく、まずはいることを受け入れる。雑談やゲームを通して信頼関係を築き、相談があれば職員が社会福祉協議会や学校、関係機関と連携して対応する。大学生スタッフが勉強を教えたり、一緒に遊んだりすることで、年齢の近い支援者としての関係が自然に生まれている。

イベントと活動

スマイルでは利用者とスタッフが一緒に企画するイベントが多数行われている。夏祭りやハロウィン、クリスマス会など、季節ごとの行事はすべて参加者主体で準備する。また、大学生スタッフが自分の得意分野を活かした「ちょこっと講座」を開くこともある。カードゲーム大会やメイク講座、写真ワークショップなど、内容は自由だ。こうした活動は、若者同士の対等な関係づくりに大きく寄与している。

支援の方法と課題

支援の中心は「話を聴くこと」にある。スタッフは一人ひとりの状況を観察し、変化を感じ取った際はコーディネーターを通じて青少年支援会議に共有する。必要に応じて福祉部局や教育現場へつなぎ、早期支援につなげる。居場所での「日常の会話」が、実は相談支援の入り口となっている。

市では、スタッフ育成や人材の継続的確保を課題としており、利用者層の拡大や支援の負担分散が今後の検討事項とされている。とくに中学生・高校生の利用が多く、20代以降の定着支援や自立支援へのつなぎをどう図るかが次のステップとされている。また、さまざまな背景をもつ若者への個別対応を担うスタッフに対して、専門的支援スキルや連携力の向上が求められている。

利用実績と傾向

令和6年度の利用者数は延べ20,292人。中学生が全体の約7割、高校生が2割、その他が1割ほど。前年より微増傾向で、特に近隣中学校の放課後利用が多い。住宅地に近い立地と、夜8時まで開室している柔軟な運営が好影響を与えている。一方、30歳まで利用可能であるにもかかわらず社会人層の利用は限られており、今後の展開が注目される。

今後の展望

市では、これまで市駅前に設けていた「ハピネス」をスマイルに統合し、支援機能を一本化した。現在は、家庭教育サポートチームや派遣型の若者支援事業との連携を深め、「教育と福祉の融合」を掲げた次の展開を検討している。市の「ターミナルパーク構想」の中でも、地域の東西それぞれに若者が立ち寄れる拠点を設けたいとの方針が示されていた。

市民ボランティアや大学との協働、ピア支援の仕組みを通じて、地域全体で若者を支える体制を築こうとする姿勢が印象的だった。

武蔵野市への示唆

スマイルの取組は、行政が責任をもって若者を受け止める姿勢を明確に示している。単なる「居場所提供」ではなく、教育・福祉・就労支援を横断的に結ぶハブ機能を果たしている点が特徴的だ。武蔵野市においても、同様の「直営+多世代連携+ピア支援」のモデルを検討する価値があると感じた。特に大学生世代の関与を制度化することで、支援の担い手を育てながら地域力を高める仕組みにつながるだろう。

まとめ

「スマイル」は、施設というよりも“関係の場”であった。そこにいるだけで否定されない空気、話を聞いてくれる誰かがいる安心感。そうした雰囲気を支えているのは、行政職員と若者スタッフの柔軟な姿勢であり、地域社会が持つ包摂力そのものだ。行政がつくる「温度のある場所」とは何か――。その答えの一つが、寝屋川市のスマイルにあった。

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青少年の居場所 ~スマイル~

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STUDIOにはドラムと電子ピアノが設置され、自由に使うことができる。
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