魔界の議場——議場の中に、人間の希望がある

『ドラゴン桜』で知られる三田紀房氏が、今度は政治を描いた。
新作『魔界の議場』(小学館・週刊ビッグコミックスピリッツ連載中)は、地方議会という現実の舞台を真正面からとらえた異色の社会ドラマだ。
『ドラゴン桜』は私も読了している。
もし二十歳くらいに読んでいたなら、私も東大を目指したかもしれない——というのはさておき、
今回の『魔界の議場』は、同じ作者とは思えないほど地方政治のリアルに踏み込んだ作品である。
舞台は千葉県外房にある架空のまち・日富市。
15年間引きこもっていた青年が市議会議員選挙に立候補する。
きっかけは、一見ささやかで個人的な出来事。
だが、それを機に、社会と再び関わることの重さと意味が描かれていく。
私自身、引きこもりではないが、どちらかといえば社会のレールから外れてきた側の人間だ。
だからこそ、この主人公の「もう一度社会と向き合う」という決意には、静かな共感を覚える。
政治をテーマにしながらも、その根底には再生と覚悟の物語がある。
この作品の魅力は、政治を制度ではなく人間の営みとして描いている点にある。
無投票当選や地域推薦、供託金など、地方政治のリアルが背景にありながら、そこに流れるのは人の想いや矛盾だ。
特定の政党や思想に偏らず、「なぜ人は政治に関わるのか」という普遍的な問いを投げかけてくる。
議会を魔界と呼ぶのは、政治の世界が複雑で矛盾に満ちているからだろう。
だが、読み進めるうちに見えてくるのは、混沌の中で必死に正しさを探す人間たちの姿だ。
選挙、地域、家族、そして過去。
それぞれが絡み合うなかで、主人公が何を見出していくのか——続きが気になって仕方がない。
そしてもうひとつ興味深いのは、原作者の三田紀房さん自身が吉祥寺在住であるということだ。
吉祥寺という地域から、地方議会や政治参加の意義を描こうとしている点に、どこか身近な政治へのまなざしを感じる。
遠い世界の話ではなく、日常の延長にあるまちの政治を考えさせられる作品だ。
私たち議員もドブ板政治ということで地元を歩くが、どうやらこの作品も同じくドブ板で知名度アップを目指しているらしい。
そんなご縁があって手に取ることとなったが、読後には素直に「面白かった」と言いたくなる一冊だった。
現場に生きる人間の息づかいと、政治をめぐる光と影の距離感が見事に描かれている。
武蔵野市議会の場合は、決して魔界というほどではない。
しかし、地域によっては魔界とも動物園とも地獄とも天国とも形容されるような議会がないわけではないだろう。
それぞれの地域に、それぞれの政治のドラマがある。
この作品を読むと、そんな多様な現場の空気まで感じ取れる。
政治を難しく考える必要はない。
この作品を読むと、議会という場所が、実は自分たちの生活のすぐそばにあることに気づかされる。
地方議会を遠くに感じていた人ほど、ページをめくる手が止まらなくなるだろう。
作品を通して、自分のまちの政治に少しでも関心を持つ人が増えたら——。
それこそが『魔界の議場』の目指す世界なのかもしれない。
書誌情報
タイトル:魔界の議場
原作:三田紀房
漫画:魚戸おさむ
出版社:小学館
掲載誌:週刊ビッグコミックスピリッツ
第1巻発売日:2025年9月末
Amazon:https://amzn.asia/d/f4kxxb4
公式X(Twitter):@makainogijo
※本稿は個人的な感想であり、作品紹介を目的としたものです。
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