吉祥寺南病院の今後と地域医療の再編
吉祥寺地域の医療体制が転換期を迎えている。
地域の中核として長年機能してきた吉祥寺南病院が、新たな医療法人のもとで再出発することになり、行政と医療関係者の間で調整が進んでいる。今回の動きは単なる経営の引き継ぎではなく、武蔵野市全体の医療提供体制に関わる重要な再編の一歩だ。

目次
吉祥寺南病院の事業継承
吉祥寺南病院(125床)は、令和7年(2025年)中に新たな医療法人へ事業を継承することが決定している。
東京都では8月に医療審議会が開かれ認可が下り、続いて埼玉県も9月に審議を終えて認可済みとなった。公告期間を経て、12月中には正式な分割効力が発生する見込みだ。
この手続きを経て、吉祥寺南病院は法的にも新法人体制に移行し、再構築が始まる。これにより、病院の経営基盤や運営方針が新たな枠組みのもとで整理され、今後の建て替えや医療機能強化につながることが期待されている。
医療法人の分割や事業承継は、医療法に基づく厳格な手続きを伴う。認可を得るまでには、診療体制・財務・雇用など多方面の審査が必要だ。今回の南病院のケースは、こうした条件をすべてクリアして正式な承認を受けた段階にある。
病床数の不足と地域の課題
武蔵野市は、三鷹・府中・調布などと共に「北多摩南部保健医療圏」に属している。この圏域全体の病床数は、東京都の医療計画で細かく管理されている。
令和7年4月1日時点での基準病床数は7,512床だが、既存病床数は6,860床。実に652床が不足している計算になる。これは近年続く人口増加と高齢化に加え、救急・リハビリなど中間ケアの需要が高まっていることが背景にある。
特に武蔵野・三鷹エリアでは在宅医療と病院医療のバランスが課題とされ、慢性的な病床不足が続いてきた。

このため、南病院の再整備は単なる建て替えではなく、医療圏全体の病床再配分にも影響する。
新病院の開設にあたっては、東京都の病床配分許可が必要であり、令和8年度以降にどのような形で許可が下りるかが次の焦点となる。
現時点での市の説明によれば、まだ最終的な配分方針は示されていないが、医療需要の現実を踏まえれば、増床方向での調整が検討される可能性が高い。
新病院開設までの流れ
市が議会に配布したスケジュール資料によると、吉祥寺南病院の新体制整備は令和9年度(2027年度)の開院を目指している。
令和8年度中に建設工事が始まり、現病院からの機能移転を3年程度かけて進める計画だ。建設地は現在地周辺を想定しており、外来診療やリハビリ機能を維持しながら段階的に移行する形となる。
建設期間中、一時的に診療機能を縮小する可能性もあるが、市は近隣医療機関と連携し、地域の医療空白をできる限り防ぐ方針を示している。

また、老朽化した現施設をどう活用するかも今後の課題になる。仮診療所や地域医療連携の拠点として一時的に活用する案も議論されており、医師会や行政の協議が続いている。
市の姿勢と地域医療への影響
武蔵野市健康福祉部は「行政だけでなく、市議会・医師会・地域住民が一体となることが重要」としている。
今後の方針や進捗は、議会を通じて定期的に報告される予定であり、市としても情報公開に力を入れていく姿勢を示している。
市民にとっても、自分が通う病院や診療所にどのような影響があるのかを正確に把握することが求められる。とくに高齢者や慢性疾患を抱える人々にとって、病院の機能移転は通院手段や受診環境に直結する問題だ。
南病院の再編は、単なる建物の話ではない。
救急対応やリハビリ、地域包括ケアなど、吉祥寺地区の医療の根幹を支える機能をどう維持するかという課題が問われている。市としても、医療機関の再編を「医療提供体制の強化」として位置づけ、医師会・介護施設・訪問看護ステーションなどと協議を続けていく方針だ。
吉祥寺南病院の事業継承は、地域医療の再編に向けた最初のステップとなる。
新病院の開設に向けて、行政、医療機関、市民が情報を共有しながら、安心して暮らせる医療環境を守っていくことが求められている。

