
概要
本日、武蔵野市役所で記者会見が行われ、吉祥寺南病院の経営法人である医療法人啓仁会より、吉祥寺南病院事業の継承先が「社会医療法人社団 東京巨樹の会」に決定したとの報告があった。
今後は病院開設に向けて、事業継承に関する許可手続きが東京都等と進められる予定であり、市としても新たな病院開設に向け、できる限りの支援を継続する方針を示した。
急性期・回復期医療の両立で地域医療を強化
吉祥寺南病院は老朽化のため2024年10月に診療を休止したが、新たな病院では急性期医療と回復期リハビリテーションの両方を提供する体制を整えることを目指す。
事業継承先である東京巨樹の会は、急性期医療と回復期リハビリテーションの両方に力を入れている医療法人であり、全国で複数の病院を運営している。特に、高度な医療を提供する急性期病院の運営と、手術後や病状が安定した患者の回復を支える回復期リハビリテーション病院の運営の両立に実績を持つ。今回の事業継承では、吉祥寺南病院でもその強みを生かし、地域の医療ニーズに対応する体制を構築する予定とのことだ。
これまで、吉祥寺南病院は急性期病院として運営されていたが、長期入院のケースが多く、経営にも影響を与えていたとの話を聞いたこともある。急性期医療は、主に手術や集中治療を必要とする患者を受け入れる機能を持つが、その後の回復期リハビリテーションが不足すると、患者の転院先が見つからず、入院が長期化する問題が発生する。急性期病床は一定の入院期間内で適切に運用されることが前提であり、長期入院が増えると病院の経営を圧迫する要因となる。
今回、回復期病院の機能を併設することで、急性期治療後のスムーズな転院が可能となり、病院の機能がより効率的に発揮されることが期待される。急性期の患者を早期に回復期へ移行させることで、病床の回転率を高め、地域の医療需要に柔軟に対応することが可能となる。これは、患者にとっても地域医療にとっても大きなメリットとなる。
診療報酬の影響と経営の課題
日本の医療制度では、病院の収益は診療報酬に大きく依存している。診療報酬は「出来高払い」と「包括払い」の2つの方式があり、特に急性期病院では「DPC(診断群分類包括評価)」による包括払いが主流となる。
急性期病院では、短期間で集中的な治療を行い、早期に患者を転院させることで収益を確保する仕組みになっている。しかし、吉祥寺南病院のように長期入院が増えると、病床回転率が下がり、収益が減少するという課題が生じる。病院の経営を安定させるためには、患者が適切なタイミングで次の医療機関へ移ることが重要になる。
一方、回復期病院はリハビリテーションを中心とした診療報酬体系が設定されており、患者が一定期間入院しながら集中的にリハビリを行うことで安定した収益を確保できる。今回の事業継承では、急性期と回復期の両方を持つことで、診療報酬のバランスを取りながら経営の安定化を図る狙いがある。急性期病床の適正な運用と、回復期へのスムーズな移行を組み合わせることで、効率的な病院運営が可能となる。
東京巨樹の会のように、急性期と回復期の両方の医療に強みを持つ法人が運営することで、単独の急性期病院よりも診療報酬の制度を活かしやすく、安定した経営基盤を確立しやすい。特に、回復期リハビリテーション病院は一定の診療報酬が保証されるため、病床の稼働率が安定しやすく、急性期病院の収益減少リスクを補う役割も果たす。
今後の展望
今後、東京都の許可手続きを経て、新病院の開設準備が進められる。急性期病院と回復期病院の機能を併せ持つことで、患者の早期回復と病院経営の安定が期待されるため、市としても支援を継続する方針である。さらに、地域の医療ニーズを反映させながら、病院の運営方針を柔軟に調整することが求められる。
今回の事業継承は、地域医療の持続可能性を高める重要な転換点となる。急性期治療から回復期リハビリテーションまでを一貫して提供することで、患者の負担軽減と治療の質向上が期待できる。吉祥寺南病院の新たな展開が、より多くの患者にとって安心できる医療環境の提供につながることを期待したい。