
金融的検閲と表現の自由——シンポジウム参加レポート
金融検閲がもたらす言論の自由への影響
2025年3月6日、千代田区の一橋講堂にて「金融的検閲と表現の自由」に関するシンポジウムが開催された。主催はカリフォルニア大学アーバイン校・国際司法クリニック。登壇者として、日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長の落合早苗氏(O2O Book Biz CEO)、NPOうぐいすリボン理事の荻野幸太郎氏、そして前国連「表現の自由」特別報告者であるデイビッド・ケイ氏が招かれた。司会はカリフォルニア大学教授のジャック・ラーナー氏が務めた。
今回のシンポジウムでは、近年加速している金融検閲と、それが同人誌や漫画、電子書籍市場、さらには報道の独立性に及ぼす影響について議論が行われた。本記事では、その要点をまとめ、問題の本質と今後の展望について考える。
金融検閲とは?
金融検閲とは、クレジットカード会社や決済代行会社が、特定のコンテンツや商品に対して独自の基準を設け、取引を制限または停止することを指す。法律に基づかず、民間企業の判断によって行われるため、「シャドーレギュレーション(影の規制)」とも呼ばれる。
同人誌・電子書籍市場での規制強化
金融検閲の影響は、特に電子書籍市場で顕著に見られる。
- 2024年8月 総合型書店が、国際ブランド(クレジットカード会社)のレギュレーション違反として、書誌に特定キーワードを含むコンテンツの配信を停止。
- 2024年11月 決済代行会社が、総合型書店に対し特定キーワードを含むコンテンツの配信停止を要請。
- 2024年12月 総合型書店が決済代行会社から、「アダルト作品を翌々日までに配信停止しなければ取引を停止する」との勧告を受ける。基準について確認したところ、「特定のキーワードが書誌に含まれているコンテンツ」との回答。
- 時期不明 雑誌読み放題サービスにおいても、大手クレジットカード会社からの要請で配信停止措置が取られる。
このように、特定のキーワードが含まれているだけで成人向けコンテンツかどうかに関わらず配信が停止される事態が発生している。ある電子コミック出版社では、売上損失が年間3400万円、上代で1億円以上に上ると試算された。
見えない規制の問題点
1. 曖昧な基準と不透明な運用
- 決済代行会社やクレジットカード会社からの要請は明確な基準が示されず、単に「取引停止する」と告げられるケースが多い。
- ある出版社が基準を問い合わせると、「そんなにめんどくさいことを言うなら、全部解除します」と言われた。
- さらに、「訴訟になった場合、発生した費用を請求する」といった圧力もかかる。最大で9000万円規模のリスクがあるとの声もあった。
- 決済代行会社からの通達は、誰がどの基準で判断しているのかが不明確であり、透明性に欠ける。
2. 規制の強化による事業停止の実例
- マンガ図書館Zは2024年11月末に決済代行会社から突然の契約解除を通達され、取引停止を余儀なくされ閉鎖に追い込まれた。
- 出版社や販売サイトの運営者からは、「誰が圧力をかけているのかが分からない」という声が多く、決済代行会社がただ通達を伝えるだけの状況となっている。
- リアル書店では指摘されないが、電子書籍では規制対象となるケースが増えている。例えば、メロンブックスは一度取引停止となったが、全国の実店舗すべてを監視することが難しく、結果的に再開された。
- これは、電子書籍がデジタルコンテンツであるがゆえに、アルゴリズムによる監視が容易であることを示唆している。
3. 来場者からの意見
- シンポジウムの来場者からは、「公正取引委員会が動いてくれると良いのではないか」との意見もあがった。
- こうした金融検閲が市場競争に与える影響を鑑みると、独占禁止法の観点から調査の必要性が指摘されている。
私の取り組み
この問題に関する私の取り組みについては、以下のリンクで発信している。
今回のシンポジウムでは、登壇者の荻野幸太郎氏より指名され取り組みについて簡単な紹介をする機会をいただいた。
➡️ 私の取り組みはこちら
まとめ
金融検閲は、もはや同人誌やアダルトコンテンツだけの問題ではない。一般書籍や漫画、報道の分野にまで広がりつつある。
「自由を支えていたインフラが崩れつつある」という現状を認識し、出版業界・書店・決済業者・行政が一体となって、適切なバランスを模索する必要がある。インターネットは自由を拡張するはずのものだったが、現状はむしろ逆の方向に進んでいる。今こそ、この問題に対して声を上げる時ではないだろうか。