多死社会が現実になりつつある武蔵野で火葬インフラの行方

見えているのに語られない火葬の逼迫という現実
火葬場の逼迫はすでに東京全体で進行している。
3〜5日の火葬待ちは珍しくなく、年末年始や混雑期には1週間以上の待ちも起きている。多摩地域の公営火葬場でも同様の報告があり、武蔵野市が日常的に利用する堀ノ内斎場や多磨葬祭場も、今後さらに混雑する可能性が高い。
背景には人口構造の変化がある。
市内では75歳以上が約2万人に達し、今後は団塊世代が85歳以上に突入し、団塊ジュニアが20年後に一斉に75歳以上へ到達する。人口動態から読み取れば、市内の年間死亡者数は1500〜1700人規模に増える可能性が高い。
人口動態が変わるということは、葬儀と火葬の現場が確実に変化を迫られるということでもある。
東京博善の大幅値上げが示すもの
民間大手の東京博善が2026年4月から火葬料を59600円から87000円へ引き上げ、区民葬儀制度から離脱する。実質27000円の値上げだ。
これを受け特別区は新たな助成制度を検討しているが、多摩地域には同様の公的補助がない。結果として市民負担に格差が生まれる可能性がある。市長答弁でも「間接的ではあるが影響はあり得る」との認識が示された。
武蔵野市の市民葬儀の火葬費用は72000円に改定されたばかりで、物価や燃料費の動向次第では今後さらに負担増が起こり得る。
火葬料金は需要と供給だけではなく、自治体間の制度の差やインフラ整備の遅れによっても影響を受ける。今回の値上げはその象徴と言える。
火葬場は将来足りるのか
一般質問では、市に対し今後の供給能力を確認した。市は「不足は今後顕在化する」と答えた。
この答弁は正直であり、同時に重要でもある。
現状、近隣葬儀社からは「2〜3日で予約可能」との声がある一方、冬場や年末には希望どおりに火葬できない例も報告されている。
そしてこの状況は、これからの高齢化曲線の中で確実に悪化する。
武蔵野市だけでなく多摩26市がほぼ同じペースで高齢化し、死亡者数が同調して増えるため、地域全体が同時に火葬需要のピークを迎える。
供給の限界が訪れる時期は遠くない。
10年前の報告書で止まった議論
多摩地域の火葬場については2015年に調査がまとめられているが、その後広域的な議論は進んでいないことが市長答弁で明らかになった。
この10年間で人口構造は大きく変わった。
にもかかわらず、広域協議も更新されず、現状は自治体ごとに個別対応しているに過ぎない。
都は今年度、都内全火葬場の能力調査を実施する方針を示したが、特別区を中心とした議論に流れがちで、多摩地域が後回しになる懸念は残る。
広域で扱うべきテーマが、広域の場で扱われていない。
これこそが火葬インフラの最大の構造的リスクでもある。
市長が示した危機感という小さくも重要な一歩
再質問では、市長が「危機感を持つ必要を感じた」と明言した。
この一言は重い。
火葬場の逼迫は目立たず、誰もあまり語らない。
しかし、人生の最後の公共サービスとして、火葬インフラは社会の根幹にある。
逼迫すれば遺族の負担だけでなく、公衆衛生の観点でも都市全体の安全が揺らぐ。
数年後ではなく、今から準備するかどうかで10年後は大きく変わる。
これから必要になる視点
一般質問を通じ、次の三点が課題として明確になった。
1 死亡者数増加を前提にした将来予測
武蔵野市や多摩地域が同時にピークを迎える構造を踏まえ、供給能力を再検証する必要がある。
2 火葬料金と市民負担の地域差
特別区は公費で補填し、多摩地域は自己負担が基本という構造が強まれば、葬祭に格差が生まれる。
3 広域協議体の不足
火葬場は単独市で整備できない施設であり、本来は広域で議論すべきテーマだが、今は議論の場自体が存在しない。
最後に
火葬場の問題は大きな声で語られにくい。しかし、市民が必ず1度だけ直面する「最後の公共インフラ」だ。
今回、市長が危機感を共有したことは確かな前進だと思う。
これからも、このテーマを議会で取り上げ続け、武蔵野市と多摩地域が次の10年を見据えて準備を進められるよう働きかけていく必要があるだろう。
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